イノシシは野山を歩き回り、餌を探して土を掘ったり、危険を感じれば走って逃げたりします。
そのため、日常的に体を動かし続ける生活をしています。
ところが、豚は家畜化されて、長い年月をかけて「早く大きくする」「効率よく肉をつける」といった方向で改良されてきました。
その結果、筋肉の発達の仕方や性質はイノシシとは違ったものになっています。
豚肉の「肉質」を考えるとき、脂肪や品種に目がいきがちです。
でも、もう一つ重要なのが「筋肉そのもの」です。
今回は、イノシシから家畜化された豚へと変わる中で、筋肉がどのように変化してきたのか?
そして、「放牧」という環境で育てると、肉質にどのような違いが生まれるか?
放牧豚を実際育てながら考えていることを書きます。
筋肉をつくっている「筋繊維」
筋繊維とは、筋肉をつくっている一本一本の細長い細胞のことです。
筋繊維にはいくつかのタイプがあり、大きくイメージすると「持久力型」「中間型」「瞬発力型」のような違いがあります。
一般的に、持久的に働く筋繊維は赤みが強く、瞬発的に働く筋繊維は白っぽく、中間的なものは中間のピンク色になります。
もちろん、実際の筋肉はさまざまなタイプの筋繊維が混ざっています。
ここで重要なのは、筋肉の量は筋繊維の数だけで決まるわけではないということ。筋繊維そのものが太くなることでも、筋肉は大きくなります。
つまり、家畜化や改良によって、筋肉のつき方そのものが変化してきました。
では黒豚は?
黒豚として知られるバークシャー種は、一般的な改良豚とは異なる肉質特性を持つ品種です。
筋繊維が細く、筋肉の組織構造が細かく感じられ「きめが細かい」等、しっとりとした食感、保水性などが特徴としてあげられます。
そして、筋肉の性質は、肉の硬さや食感、肉汁の保持など「肉質」にも関係してきます。豚肉の美味しさを考えるときには、脂肪だけではなく、筋肉そのものを見ることも大切なんです。
ではデュロックは?
一般的に、肉質や発育に優れ、脂肪交雑(霜降り)にも比較的優れる品種として知られています。
そのため、三元豚の止め雄などに利用されて、特に赤身肉の質や脂肪交雑など、重要な役割を担ってきました。
この二つを掛け合わせると、「黒豚が持つ筋肉の性質」と「デュロックが持つ発育性や肉質、脂肪交雑などのバランスの特性」を受け継ぐ可能性があります。
もちろん、実際の肉質は両親の遺伝的な違いや、性別、飼料、飼養環境などによって変わるため断定はできません。
そして「放牧」という環境
では、同じ遺伝的な能力を持った豚でも、育つ環境が変わったらどうなるのか?
放牧では、自由に歩き回れるし、走ったり掘ったり長時間動き回れます。特に子豚は驚くほど活発です。母豚と一緒に寝ている時もありますが、あちこち走り回っている姿もよく見かけます。
豚舎の中だけで生活する場合と、身体の使い方が大きく違いますね。
放牧を始めた理由
「放牧をしているのは、アニマルウェルフェアのためですか?」そう聞かれることがあります。(そもそも来てくれるお客様がいませんが…笑)
もちろん、自由に動き、自然な行動をとれる環境には大きな意味があると思います。
でも僕が始めた理由は、「豚が本来持っている能力を、そのまま付加価値として消費者に届けられないだろうか?」そう思ったからです。
豚自身が持っている能力を、環境によって引き出すことができれば、何か違った豚肉になるのではないか。(一人だしうまくいくかは分からないけど…)
放牧すると肉質は変わるのか?
これは、単純に「放牧=美味しくなる」とは言えません。
放牧は運動量が増えます。
筋肉の使い方も変わりますし、消費エネルギーも増える。
さらに、佐渡の冬のように気温が低い環境では、体温を維持するためにもエネルギーを使います。
屋内で温度管理された環境と違い、屋外では暑さや寒さなど、季節の変化を直接受けます。
つまり放牧では、
運動によるエネルギー消費に加えて、暑さや寒さなどの環境変化に対応するためのエネルギー消費もあります。
そのため、条件によっては脂肪がつきにくくなり、筋肉内脂肪(霜降り)が減る可能性もあります。
だから、「放牧すれば全ての肉質が良くなる」というわけではないです。むしろ、豚を育てる難しさも増えてきますね。
土に触れるということ
屋外で育つ豚には、もう一つ大きな違いが、
土に触れるということです。
豚さんは土を掘るのが大好きです。
母親の行動を見て、子豚も上手に鼻をつかい土を掘ります。
その中で、土壌由来の鉄やミネラルなどを摂取している可能性があります。
放牧豚で肉の赤みや香りなどに違いを感じることがありますが、放牧環境のどの要素によるものなのかはまだわかりません。ですが、こうした自然に近い行動ができる飼養環境こそが、豚の本領発揮が見れるのではと思います。
よね僕自身、子豚が生まれたときに鉄剤を投与していません。初めは心配だったので、鉄剤を購入しました。でも実際に捕まえようとすると子豚が泣いちゃいます。すると母豚の「つぶちゃん」に睨まれます!これは危険だなってやめました。今のところ、僕のところでは、鉄剤を使わなくても子豚の毛艶や発育に大きな問題は見られないです。
屋外で生まれることは、発育にも関係する?
僕がもう一つ不思議だなと思うこと、発育です。
1日増体量や最終的な枝肉の重量などを見ていると、屋内で生まれ育った豚とは違った結果になることがあります。
もちろん、これも単純に「放牧だから発育がいい」とは決めつけられません。
ただ、1頭あたりの床面積がとても広くとれていて、生まれた直後からストレスの影響がかからない。一般的な豚舎の分娩ストールとは、運動できる広さが大きく違います。
そうした環境の中で、母豚と一緒に動き回り、自由に行動できること。
健康状態やストレスなど、さまざまな要因が重なった結果、発育に違いが出ているのではないかと考えてます。
安易に、「黒豚を放牧しているから美味しい」とは言えない
肉質は、一つの要素だけで決まるものではなく、
正確には、遺伝 × 飼養環境 × 飼料 です。
どんな遺伝的能力を持った豚か?
どんな環境で育てられたのか?
そして何を食べて育ったのか?
この3つが組み合わさって、最終的な肉質につながる。
同じ品種でも、育て方が変われば違いが出る。逆に、放牧という環境が良くても、豚が持っている遺伝的な能力や与えている飼料によって結果は変わる。
豚さんの「本領発揮」を肉質につなげたい
『豚が本来持っている能力を、自然に近い環境で引き出したら、肉質にどんな変化が起こるのか?』
まだまだ知らないことばかり、自分自身で勉強し確かめます。
そして、その結果をお肉という形で消費者に届ける。それを目指しています。
次は「飼料」のも目を向けながら、豚肉の肉質について、深く考えてみたいと思います。
まだまだ勉強中ですが、ここまで読んでいただきありがとうございました。
頑張ります。








